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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)171号 判決 1960年9月27日

大阪市北区天満橋筋一丁目四五番地

控訴人

青木メリヤス製造株式会社

右代表者代表取締役

青木駒治郎

右訴訟代理人弁護士

水田猛男

同市北区中之島四丁目一五番地

被控訴人

北税務署長

佐々木新次郎

右指定代理人

平田浩

松谷実

南秀雄

尾島貞彰

出羽賢次

右当事者間の法人税等再更正決定取消控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和三〇年九月二一日附でなした昭和二八年一月一日より同年一二月三一日までの事業年度の法人税等の再更正決定(昭和二七年一月一日より同年一二月三一日迄の事業年度の繰越欠損金を否認)は之を取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並に証拠の提出援用認否は控訴代理人において「本訴請求原因は要するに、控訴会社は昭和二七年営業年度において、青色申告納税者としての承認を受けていたに拘らず、被控訴人が右承認のなかつたものとして同年度の欠損金の繰越を認めなかつたことが違法であることを主張するものであつて、その余は事情の主張である。即ち被控訴人が同年五月二九日に青色申告書提出の承認申請書を提出したところ、被控訴人は即時之を承認したものであるから、欠損金の繰越を是認することは適法で、之を変更する理由は全くない。原判決は青色申告納税者としての承認は行政処分でないから、法律上の効力がないというが之は税法の解釈を誤つたものであり、この承認は正に行政処分であり、若し之が誤つていれば税務署長はその取消処分をしなければならない。而してこの取消処分があるまでは右承認は有効であり控訴人を青色申告納税者として処理すべきである。法人税法第二五条第三項が訓示規定であることは昭和三三年四月二日附毎日新聞(甲第六号証)紙上にも税務当局によつて明らかにされている。三六尚本件は再更正決定なる名目で行われているが、その実体は更正決定である。

控訴人が昭和二八年事業年度の青色申告納税者であることは当事者間に争いがなく、同納税者に対し更正決定をなす場合は、法律において限定されているが、本件の場合はそれに該当しない。いずれにするも本件更正決定は取消されねばならない」と述べ甲第八号証を提出し被控訴代理人において「控訴人の右主張を否認する。原判決が控訴人の昭和二七年五月二九日提出した青色申告書提出の承認申請書を被控訴人が即時承認した旨判断したのは事実の誤認である。被控訴人は単に右承認申請を受理したのみであつて、積極的にこれを承認する旨の行政処分をした事実はない。控訴人主張の毎日新聞の記事は所得税に関するものであつて法人税に関するものではない。

法人と個人とでは営業に関する帳簿の占める重要性に非常な差があり、個人の場合には帳簿の備付けがなく、又はたとえあつても覚え書き程度で営業活動の実態を如実に反映するようなものでないのが大多数であり、法人の場合に比較して青色申告制度を積極的に保護育成する方針をとる必要がある。そのため、所得税法第二六条の三第四、五項は法人税法第二五条第三項と異り、課税年度の開始した後である三月一五日迄承認申請書の提出を認めているのであり、この関係から所得税に付ては右提出期限経過後も尚若干の猶予を認めているが之に反し法人税に関しては事業年度開始の日である一月一日の前日までに提出すべきものを、右年度開始後の五月二九日迄猶予を認めるこはと出来ない。又いわゆる欠損金の繰越の承認も行政処分ではないのであつて納税義務者の申告に対し税務署長は積極的に承認という行政処分をするのではなく、調査の結果課税標準額法人税額に誤りがあつたときは、法人税法第三一条九二所定の更正期間内であれば何時でも何回でも更正決定をすることができる。一般に申告の承認といわれているのは単に税務署長が異議なく、申告を受付け更正決定をしない状態にあることを指称するにすぎない。又調査の結果たとえ欠損金の繰越があつても他に同額の損金のあることが発見されれば課税標準額、法人税額には誤りがないこととなるから更正決定はできない、従つて更正決定がされなかつたからとて申告書記載の個々の勘定項目の記載が正当であると税務署長が認めたことにならない。

欠損金の繰越のような個々の勘定項目は課税標準の計算の過程においては重要な意味を持ち得るとしてもそれ自体行政処分の対象となるものではない。本件課税処分の標題に再更正決定と記載されたのは誤りで控訴人が納付すべき法人税がない旨の申告書を提出したのに対して法人税法第三〇条に基づいてなされた決定であるから、単に「決定通知書」と記載すべきものであつたが、かような誤りは極めて軽微なかしであり課税処分の効力に影響はない。尚本件課税決定のなされるに至つた経過は次のとおりである。控訴人は昭和二九年二月二〇日被控訴人に対して白色申告用紙に青印を押印した本件事業年度分の確定申告書を提出した。そこで被控訴人において昭和三〇年六月頃控訴人の申告内容を調査したところ損金不算入となる市町村民税四四、三七〇円が誤つて損金に算入されていることを発見して之を申告金額に加算したのであるが、誤つて控訴人の申告どおり繰越欠損金を損金に算入したため課税標準は零となつたので、特に課税処分をすることなく放置されていた。ところが昭和三〇年九月頃会計検査院の検査により控訴人は昭和二七事業年度は白色申告法人であり本件事業年度に昭和二七年度の欠損金を算入することは法人税法第九条第五項但書に反することを指摘されたので昭和三〇年九月二一日附で本件課税決定をしたものであり、若し右の誤りに気付いておれば法人税法第三一条の二所定の期間内である限り、会計検査院の指摘を受けるまでもなく、その誤りを修正すべきものであつた」と述べ、甲第八号証の成立を認めたほかいずれも原判決事実摘示と同一であるから之を引用する。

当裁判所は控訴人の本訴請求を失当として棄却した原判決を相当とし、従つて本件控訴を理由なきものとして之を棄却すべきものと認める。その理由は次の(一)ないし(三)の判断を附加するほか、すべて原判決の理由の記載と同一であるから之を引用する。

理由

一、原判決の理由の記載の内

(1)  同判決六枚目裏一三行目一二「被告が即時これを承認したことが認められる」とあるのを「被告が即時異議なくこれを受理したことが認められる」と

(2)  同じく七枚目裏四行目に「承認」とあるのを「異議なく受理したこと」と

(3)  同じく七枚目裏九行目以下に「被告が即時にこれを承認したとは言うものの、この承認によつても」とあるのを「被告が即時にこれを異議なく受理したとは言うものの、この受理によつても」と

夫々あらためる。その理由は青色申告書提出の承認申請に対し被控訴人の係員において、事実上之を承認する旨の言動があつたとしても、申告納税制度をとる法人税法の下において之を租税の賦課処分と見るべきものでなく、いわゆる準法律行為的行政行為の性質を持つ受理行為であると見るのが相当であり、この受理行為によつてどのような効果を生ずるかは法人税法の解釈によつて決せられるものである。被控訴人の係員が右の承認申請をすすめたとしても、以上の判断には影響は無いとみるほかはない。

二、成立に争のない甲第六号証によつても、法人税法第二五条第三項を訓示規定と解釈することはできない。

三、本件課税処分の標題に、再更正決定と記載されているのは誤りであつて、之は昭和二七事業年度の繰越欠損金を否認する旨の、法人税法第三〇条に基づく決定通知書と見るべきものであるが、この誤りは課税処分の効力に影響を及ぼすべきものではない。

以上の次第であるから民事訴訟法第三八四条第八九条を適用し主文のとおり判決する。

右は正本である。

昭和三五年九月三〇日

(裁判長裁判官 加納実 裁判官 沢井種雄 裁判官千葉実二は病気につき署名捺印することができない。)

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